将棋とAI ④

<将棋AIの棋力の変遷>

 以上のような2010年代中頃の状況から、AIに勝てず、最善手を指し続けることができない人間同士が、プロと称して将棋を戦うことにどんな意味があるのかと疑問を呈され、プロ将棋棋士不要論まで出てきたりして、今の将棋ブームが起こる直前の将棋界は、将来に暗雲が立ち込める雰囲気にあった。

ところが、2010年代後半になり、若手を中心に、AIと実力を競うことはあきらめて、AIが導き出す指し手を尊重し、AIを使って将棋の分析を行うことで自分の実力向上に有効活用するプロ棋士が現れてきて、AIと協調する時代に入った。そこへ、AIをフル活用する藤井聡太が彗星のごとく現れて、時にはAIが示す難しい最善手を指してみせ、また時にはAIが示す最善手とは全く異なる手で結果的には形勢判断の数値を上げたりするなどして、どんどん勝ち進む姿に視聴者は魅了され、前述の将棋ブームにつながっている。 AIは将来、人間の仕事を奪うのではないかと言われている。将棋界は一足先に、AIにその仕事を奪われかけ、絶望の中からAIと協調する道を探り出し、今度は盛り上がりを見せている。将棋界がたどってきたこのような経緯は、将来のAIとの付き合い方について、一つのヒントを与えているのかもしれない。

※本コラムは2023年10月に執筆したものを掲載しています。