将棋とAI ①
<全タイトル制覇と将棋ブーム>
先日、プロ棋士の藤井聡太が将棋界にある8つのタイトルのすべてを獲得して、大きな話題を呼んだ。子供の頃から将棋と慣れ親しんでいる私だが、将棋がこんなに世間の注目を集めていた時期を知らない。確かに、羽生善治が1996年に、当時存在した7つのタイトルすべてを取った瞬間は、将棋が大きく取り上げられたりもしたが、そのブームは長く続かなかった。その理由の一つとして私が考えるに、将棋に詳しくない人にとっては、将棋は難しく、対局そのものを味わう方法がなく、羽生が全タイトル制覇したという事実以上の情報を深掘りすることができず、さらに面白い話題となりえなかったのかもしれない。 ところが今回は、当時とは違う。確かに、藤井聡太という早熟の天才が、デビュー29連勝という華々しいスタートとともに、過去に存在したほとんどの最年少記録を塗り替えながら、弱冠21歳で将棋界を全制覇していく物語自体が非常に面白く、人々を魅了し続けているということもあるとは思う。しかし、今回はそれに加えて、将棋に詳しくなくても、将棋の対局そのものを簡単かつ臨場感を持って味わえるインフラが整っているのである。それが AI による形勢判断である。
※本コラムは2023年10月に執筆したものを掲載しています。